仮面
　それから市川は改めて自己紹介を兼ねて、大家に名刺を手渡した。




「へぇジャーナリストなんだねぇ」




　その職業に就いている人間を初めて見たのか、はたまた目の前の男がジャーナリストにはとても見えなかったのか、名刺と市川の顔を交互に何度も見ていた。



「早速ですが、上田さんのことをお尋ねしたいのですが」




　大家の訝しむ態度を無視するように、市川はそう言ってバックから手帳とボイスレコーダーを取り出した。



　大家は「はぁ」と妙な声を上げ、空いていた席にようやく座った。




「上田さんってのはどんな方でした？」



「・・あまり関わりのない人だったからねぇ。最近は職も辞めて、引きこもっていたようだし」




　大家はうかない様子で語っていた。



　大家によると上田は、アパートの住人の誰も見たことがないほど、影のある不思議な男だった。



　大家ですら、契約のときの一度しか会ったことがないと言う。
< 26 / 106 >
表紙・目次

この作品をシェア

pagetop