子犬系男子
「キミちょっと…」

しつこいよ、と言おうとした瞬間、キラキラした瞳で「やっぱり先輩はかっこいいッス!!」と言って私をぎゅうぎゅうに抱きしめた。

苦しい離せ。

「キミいい加減に…」

「昨日初めて先輩と会ったときから綺麗な人だなって思ってて、今日改めて先輩と話してみてやっぱり俺先輩が好きです!!」

「ちょ、とりあえず離してくれるかな」

そう言って胸板を押せばスッと離れてくれた。

「俺先輩のこと…」

「わかった、わかったからとにかく学校へ行こう。遅刻する。」

七瀬くんの言葉を遮って時計をみれば8時ちょっとすぎ。

電車に15分揺られて歩いて10分。

8時30分から学校が始まるというのに、これじゃギリギリじゃないか。

いつも10分前には学校に着いてるっていうのに…ちくしょう…。

七瀬くんに至っては隣で「やった!先輩との初登校!」なんて言いながらルンルンで歩いている。

途中、「あ、コンビニ寄ってもいいッスか?」という七瀬くんの言葉にすかさず「置いてくよ」と言えばそそくさと小走りで私に着いて来た。お前は犬か。

ただでさえ遅刻しそうなんだ、勘弁してほしい。



登校中、七瀬くんとの会話が尽きることはなかった。(というより七瀬くんが勝手に喋っていた)

その中の会話で「先輩!俺のこと下の名前で呼んで下さい!」なんて言うから「閭くん?」と言えばものすごくニコニコされた。

でも、閭くんって言いにくいといえば「みんなからはりょっくんって呼ばれてますよ!」とまたもニコニコ私を見てくるもんだからこっちは苦笑い。

私にりょっくんと呼べと言うのだろうか…なんかものすごく嫌だ。

苦笑いしながら「いや、私はやはり七瀬くんで…」と言えば「えぇー!」と不満そうな声が上がるが無視だ。

歩く速度を速めれば「あ!待ってくださいよぉ!」と言って、てとてとついてくる。

身長もそこまで高い方じゃないし、どちらかというと小型犬?

とにかく本当に犬みたいな子だ。







無事学校には着いたが、8時35分…

「あちゃー、遅刻ッスねぇ…ふぁ…」

なに呑気にあくびなんてしてるんだこいつは。

元はと言えばキミのせいなのですよ七瀬くん。

2人で下駄箱に行き靴を履き替えてお互いの教室に向かう。

別れ際に七瀬くんが口を開いた。

「先輩!また会いに来ますね!」

もう来るな、と出かけた言葉を飲み込んで「ほどほどにね」と言っておいた。



それにしても疲れた。朝からこんなにげっそりしたのは初めてだ。

しかも高校に入って初めて遅刻してしまった。

遅刻してしまったものはもう仕方ないけど七瀬くん、恨むよ。

「ハァ…」とため息を吐いたところで教室に向かう足を速めた。
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