理想恋愛屋
「げ、オトメくん…」

 入り口には、自称オレの弟子・オトメくんがこの状態を見て、なぜか興奮気味。

驚いたのもつかの間、カメラを取り出し始める。

「さ、さすが師匠ですね!」

 ファインダーを覗いて、今にもシャッターを押しそうだ。

「や、やめろって…!」

 慌てたように制止にかかったオレの言葉は、切なくも遮られる。


「ちゃんとキレイに撮ってね?」

 オトメくんに便乗したのは秋さんで、そんなことを訂正するヒマを与えてくれるわけがなかった。


 こんなことが形として残ってみろ。
オレの明日は確実になくなってしまう……っ!


 嬉しそうな背後からの声よりも、目の前の恐怖。

しかし、時間は待ってくれないのだ。


「いい加減にしなさいよ……っ」

 頬を真っ赤に染めて、キッと睨みあげる彼女。

それは己の身体が一番知っている瞳だ。


「ちょ、ちょっと、待てって…!」

 何とか体を離そうとするが、後ろの加わる腕力でさらに動けない。

「秋さん!じょ、冗談辞めて、早く離して…」

「んもう、シャイなんだからぁ」

 背後に向かって声をかけてみるものの勘違いの返事で、背中に更に体重がかかってきた。

「ぐうぅっ…っ」

 オレは必死に目の前の彼女に、これ以上近づかないように、己の限界を超えてでも腕を突っ張るしかできない。

 でも誰もこの努力を汲んでくれるわけもなく、例のごとく、アレがくるわけで。



< 154 / 307 >

この作品をシェア

pagetop