理想恋愛屋

3.舞台にご用心!

 本番当日、都の一件があってからか、オレの中で不思議と緊張が抜けていた。

相変わらず、彼女は黙秘とばかりに何も触れてこない。

だが、オレの考えが正しければこのままでいい。


 発表は午後からだけど、一同は午前中から集合し打ち合わせとリハーサルを重ねる。


「ああ、ロミオ。どうしてこんなにも会えないのかしら…?…ひゃっ」

 ロミオとジュリエット、といえば、あの名シーン。

しかし、あんなメロドラマティックな部分まで子供相手に再現するのはさすがに引ける。

よって似たような言葉に置き換えていた。


「萌さん、しっかりして!」

 この舞台、このシーンのためにも舞台を腰くらいまでの高さにしたのもある。

壇上にたたずむ萌に、下から登場したオレが駆け寄ることで見せるのだ。


 おかげで事故も起きそうになったが、見せ場のために変更の余地はなかった。

そんな大事なシーンだが、萌の衣装は足元が見えるか見えないかという程の長い丈のワンピース。

見上げながら歩みを進めるためか、何度も裾を踏んでしまうのだ。


客席からメガホン片手に腕組をして見つめる彼女は、容赦なく檄を飛ばす。


「ご、ごめんなさい」

「もう一回!」

 彼女の手には台本はない。おそらくすでに頭の中にあるのだろう。

萌が舞台の袖に戻り、先ほどと同様に一歩ずつかみ締めるように再び現れる。


──はずだった。


「ああ、ロミ──おォオおっ……っ!」

 萌にしてはヤケに雑な叫び声。その異様な雰囲気に一同ハッと息を呑む。

ズダンッ、とこれも何回か目にした萌の倒れこんだ姿。



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