理想恋愛屋
 ドアノブに手が触れる頃。

「ちょっとぉぉおおっ!!」


 ガツン!という痛々しいほどの音を立てて、扉が開いた。

そしてその叫び声は忘れもしない。


「……あら…?」

 部屋をきょろきょろする彼女にはオレが見えてないのだろう。


 それもそうだ。

オレは彼女の入室による悲痛の犠牲に苦しんでいるんだから。


「いってぇ……」

 見事に開いた扉をオレの額にクリーンヒットをさせた彼女は、ようやく気づいたのか、うずくまるオレに見下ろす。


「あら、こんなとこにいたの?」


 少しは心配とかしろよ!

って言葉は言っても無駄なので、胸にしまった。


「あ」

 何かに気づいた彼女は、尻をついているオレの前にしゃみこんだ。



 相変わらず、気は強そうだけれどそのかわいらしい顔立ち。

口さえ開かなければ、オレだって素直に言葉にしてやるものの。


「…なんだよ」

 オレが聞くと、ニコリと天使のような笑顔に、不覚にもドキンと心臓が跳ねてしまった。



 その瞬間。

彼女はオレの背広の内側ポケットから革の長財布を抜き取る。


「……ハイ…?」

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