理想恋愛屋
 理解できないオレの目の前の扉は、今度は慎重にもう一度開かれる。


「すいませーん、これどこですか?」

 いかにも作業服のおじさんが二名。

「えーと、じゃあ、あの茶棚の隣で!」


 てきぱきと指示を出す彼女。


 それにしたがって運び込まれたものは、彼女より少し低い背丈の銀色の扉。

 電気ポットや数組のカップがしまってある戸棚の隣に置かれる。


 額の痛みと目の前の現実に追いつかず、その場に座り込んだまま、ただその風景を見ることしかできないでいた。


 一人は、その銀色の箱からコンセントにつなげ、扉を開いて棚やらなにやらをセッティングしている。

先ほど彼女に話しかけたおじさんは帽子を脱いで、ポシェットから一枚の紙切れを広げる。


「えーと、代金は三万六千円になります」

「はーい」

 彼女は嬉しそうにオレから奪った革財布を開くと、四人の福沢諭吉を手渡していた。


 というか。


「ちょっと、それは…っ!」


 オレの財布だ!!


 慌てて起き上がり駆け寄ろうとすると、一瞬立ちくらみを起こしたオレは足をもたつかせる。



 ……なんか似たようなパターンだな。

なんて思っているうちに、おつりを受け取る彼女に突っ込んでしまう。


「ちょっ……!」

 目を見開く彼女を最後に、オレは目を瞑って再び走る額への衝撃を覚悟した。


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