理想恋愛屋

2.デートの誘い方

 ブーン、と重々しい音を立てながら、片隅で部屋の大きさに不釣り合いの冷蔵庫が佇んでいる。

「まだかなぁ?」

 銀色の扉の前で落ち着かない彼女は放っておく。

 コーヒーが入ったカップを丁寧にローテーブルに置いて、改めて話の本題に入ることにする。


「今日はどうした?」

 萌が事務所にくるのは、再会した以来だ。


 もう会うことはないかもしれない……それくらい、思っていた。

 オレの言葉に萌はキュッと膝の上の手を握り、ちらりと彼女に視線を送った。

「ちょっと、相談事っていうか……」

 兄のことか。

 萌は彼女の兄、匠さんと現在交際中。

先ほどのメールを思い出しどっと疲れるが、定期的に送られてくる兄からの浮き足立つメールからは幸せが滲み出ているのは知っている。

 毎度『ごちそうさま』なわけだ。


「順調なんだろ?」

「え、あ、……うん」

 気まずそうに俯く萌。

 まあ、無理もない。 こう見えて、萌はオレのモトカノだ。

萌が新しい恋に向かって出発しようと決めた場所が、偶然にもオレの経営する事務所『理想恋愛屋』となってしまった。

 皮肉なもんだ。


 そんな時、外からポンポコと間抜けな音楽が聞こえてくる。

独特の、どこかの民族に伝わる宴のような音だ。


オレたちは真剣になるになりきれず、変な顔になってるに違いない。


ただ一人を除いて。


「アロハイエ!」

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