理想恋愛屋

1.弱いトコロ

「アっロハ、イエ~」

 ……。

「アっロハ、イエ~」

 …………。

「んー、おーいし~い」

 みなさん、こんにちは。『理想恋愛屋』の社長の葵です。

 少し前までは静かな事務所でたんたんと仕事をこなしていたのですが、とある事情で独り言すら呟けなくなりました。


 え?なんでかって?

……そんなの、オレに聞かないでくれ。



「あーん、お兄ちゃんまだかなあ?」

 見事に平らげた後のアイスのカップをテーブルに散乱させ、そしてソファにふんぞり返る彼女を、オレは恨めしげに見つめた。


 でもここで怒りに任せて何かしでかしてみろ。

やれ変態だ、やれセクハラだ。おまけに痛ーいハリセンの刑に決まっている。


 ああ、思い出しただけで痛い!


 ブルブルと顔を振って、もう一度パソコンの画面に戻る。


 するとピコーンと音と共に画面の右下に新着メールの表示。

 そこには、オレの吉報があった。


 今にもソファで眠ってしまいそうな彼女に、オレは勝ったように言ってやる。

「お前の兄貴がもうすぐ来るそうだよ」

「ええっ、ホント!?」

 嬉しそうにぱっと体を起き上がらせた。

無性に悔しくなるのはオレだけだろうか。

「ほら、行った行った!」

 追い出すように彼女の背中を押す。

「どこさわってんのよ!このスケベ!!」


 ほらな、予想通りだよ。

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