似非恋愛 +えせらぶ+

「これ、飲めるか?」

 はっとして顔を上げると、斗真がマグカップを持っていた。匂いからしてココアだ。

「ありがとう……」

 私はマグカップを受け取って、手の震えが治まっていることに気づいた。

「斗真、どうしてあの場に……?」

 斗真は頭を掻いて、私の隣に座った。

「気づいてたんだよ、あいつがお前のこと追いかけてるの」
「……え」
「だから俺もお前のこと追っかけてた。まあ、時間があったときだけだったから、今日居合わせたのは、本当に偶然だ」

 真治は私のことを……ストーカーしていた?

 斗真が私の肩を抱いた。

「香璃が無事で、本当に良かった……」

 そこで、私は斗真が小城君に言っていた言葉を思い出した。

「と、斗真……、小城君に言ってたのって……」

 斗真は私を見つめる。真剣な瞳に、私は口をつぐんだ。

「香璃、好きだ」
「……え」
「なんで気づかねえんだよ、お前」

 あんまりな斗真の言い分に、私は思わずかっとする。
< 232 / 243 >

この作品をシェア

pagetop