ジューンブライド・パンチ
 ゆっくりしていられない。バタバタとブライズルームへの階段を駆けあがり、次は和装にお色直しだ。ドレスの下は汗だくだった。

「いててて」

 隣のスペースからカズミの声。締められる帯が痛いらしい。
 わたしも襦袢、はい次は足袋だと、いっぱい着せられ、髪を結って貰う。腰まで髪があるので、現代風日本髪アレンジを、カツラ無しで結えた。
 これも節約のアイディアだけど、わたしは着物が好きなので、髪飾りをいくつか持っている。つまみ簪のちょっと良いやつとか。それを使って貰った。なんでもレンタル、オプションと付けていくと、お金がいくらあっても足りない。無駄な出費はしたくなかったから。
  
「おなつの着替え、時間かかるなー」

「仕方ないよ。待ってて~!」

 そんな会話をしながら、ジャッと仕切のカーテンが開かれる。

「おお、できた」

「どうですか」

 黒地に金の模様がある着物。これもカズミが選んでくれたものだ。

「いいねぇ」

 カズミもきっちり羽織袴を着せられていた。やっぱり似合うなぁ。姿見の前に、ふたりで並んでみる。
 茶髪、ピアス、髭。顔が濃い。笑わないと、ちょっと怖く見えてしまう。

「……襲名披露?」

 ふたりで、笑った。

「まぁいいか」

 介添えにせき立てられながら、ふたりはまた披露宴会場へ。
この中座の時間で、プロフィールムービーが流されたはずだ。わたしの弟たちが作ってくれたもの。子供の頃からの写真と、カズミとわたしの写真を使って、とっても素敵なものに仕上げてくれた。

「ここ、太鼓で入場だったよな」

「そそ、逃げられないようにしなきゃ」

「フフフ」

 和装入場は、支配人が和太鼓を叩いてくれた。かなり本格的。そして、叩いた後にさっと居なくなってしまうそうで、わたし達は支配人のために「退場曲を用意しよう」とサプライズを計画していた。
 ドドドン、ドン。太鼓の音。それに乗って、和装入場。余裕などないので、笑顔を振りまきつつもかなり必死である。

「ヨイヤッサー!」

 会場に太鼓とかけ声が響いた。
 支配人はそそくさと退場しようとした。でも司会に呼び止められた。自分のために音楽がかかり、ビックリしつつ嬉しそう。なんとかサプライズは成功。ちょっとでも感謝を形にしたかったから。

 さっきよりも緊張がほぐれたのと、喉が渇いたのとで、カズミはビールを一気にあおった。

「かー! うめぇ!」

「飲み過ぎ注意だよ」

 カズミはお酒が大好き。それなのに、お酒に飲まれるタイプ。短時間で大量に飲んで潰れるといった具合だ。電池切れみたいに寝ちゃう。寝られると困るので、注意が必要だ。

「喉が乾いて……」

 仕方ないよね。ちょっとなら。テーブルの下に、飲めない分を入れるバケツもあるし。

 その後は友人スピーチがあって、友人達と写真もることができた。新婦友人席からみんなで来てくれて、わたしの涙腺は再び決壊。お話したかった。嬉しかったのだ。テーブルから駆け寄ってくる女子達の破壊力は凄まじい。

「うええー」

「お奈津ちゃーん、キレイだよ!」

 みんな美人ばかりで、テーブルが華やかだし、正直そっちのテーブルに混ざって一緒にご飯を食べたかった。女子会みたいにして。

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