ジューンブライド・パンチ
 ふと前を見ると、新郎友人テーブルにカズミが混ざっていた。なにをやってるんだ。楽しそうだなぁ。わたしも行きたい。しかし……もしかして、ちょっと、いやかなり飲んでない? 少し不安になってくる。
 新婦はドレスだろうが和装だろうが、衣装のせいであまり自由にならない。カズミを引っ張ってくるわけにもいかないし。高砂に戻って欲しいのだけれど。
 まったくもう……。仕方がないね。友達と、楽しい時間を過ごしているわけだから。そこに水を差すわけにもいかない。

 歓談の最中、弟がそばに来た。

「これ、サプライズだから」

 そう声をかけてきた。どういうこと? それと同時に司会が合図、スクリーンが出てくる。

「なんだろう?」

 見ていると、ムービーだった。
 弟達と、うちの両親が内緒で作ったサプライズメッセージムービーが流された。
 感動の時間になるはずだった。きっと、弟達もそう考えて作成したに違いない。でも、それどころじゃなかった。高砂に戻ってきたカズミが、また飲まされたみたいで、かなり酔っている。ムービーが流され、一応は気にしていたけれど、たぶん見てない。目も頬も赤い。もうやばい。

「お酒、もうダメだよ」

「注がれた酒は全部飲まないと、失礼だし」

 そういうことではない。ちょっと、本当にだめだ。やばい。
 そうこうしている間に「新婦、お色直しの中座です」とアナウンス。もうか、もう中座なのか!

「飲み過ぎないで」

 そう声をかけて、わたしは席を立つ。

 母親と義妹の介添えで退場だ。これもサプライズ。ふたりとも泣いていた。なにせ、吉幾三の「娘に」がBGMだったから。娘を嫁に出す父親の心境の歌。お母さんのリクエストだった。

 みんな想い出 持っていけ
     写真一枚 あればいい

 しんみり、涙を誘う歌だ。
 実家から車で30分のところに住んでいるんだけれどね。けっこうな頻度で毎週帰っているんだけれどね。
 両親には悪いけれど、たとえ涙の場面であっても。わたしはいま、それどころではないのだ。とにかくカズミが心配だった。でも、その場に居座るわけにもいかず、お色直しのために、彼を残して退場した。
 わたしが退場した後は、カズミへのサプライズで手紙を読んで貰うことになっていた。でもなんか……あの感じじゃ聞いていない方に3000円。

 後で分かったことだけど、カズミは自分が中座して食べられなかった料理を、友人席に配っていたのだ。こんな新郎見たことがない。こういう所が、本当にね。なんていうか、ね。良いところかな。

 ブライズルームで色ドレスに着替えている最中、和装でカズミが退場するとき用に選んだ曲が聞こえてきた。カズミが敬愛する鳥羽一郎先生。

「あ、カズちゃん退場だ」

 この時、カズミの弟とわたしの弟に介添えをサプライズして、3人で退場しているはず。弟達はお酒がちょっとしか飲めない。真ん中に陽気な酔っぱらいを挟んで退場してきているはずだ。様子が目に浮かぶ。 

「ああもう、大丈夫なのかなぁ。心配だよ……」

 わたしはぼやく。

「恥ずかしがっていらっしゃったみたいですが、ちゃんとお手紙、聞いていたみたいですよ」

 介添えの人が教えてくれた。

「本当ですか?」

 それは後ほど、DVDで確認しましょうか。

< 13 / 19 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop