ジューンブライド・パンチ
「ああ、疲れた」

 ドレスを脱いでヘアピース、アクセサリーを外して。メイクは宿泊先で落とすとして。肩の荷が降りた。疲労感がどっと襲ってきた。

 ガタガタガタ!

 ああ、カズミ帰ってきた。相変わらずベロベロに泥酔していて、おまけに泣きはらした顔。なんだ、これ。でも、もういいよ。終わったから、だらしなくなってもいいよ。
 ある意味、全部に全力。

 支えながら着替えを済ませ、帰り支度をする。控え室のソファに座りながら「もう終わったの?」とカズミが言う。

「終わったよ。みんな帰ったよ」

「帰ったのか? なんだよぅ二次会は?」

 やりたいんですか……。

「終わったよ。がんばった。あと、帰ってゆっくり休もうね」

 全体重をかけてくるカズミの背中を、ポンポンと叩いた。

「俺さぁ! 悩みがあるんだよお!」

 ……なんで泣いてんだ。

「おなつがヨォ、俺より先に死んだらどうしようかって、思っ……うう」

「いまはまだ分からないよねぇ、そればっかりは」

「どうすんだよお」

 大量の鼻水を垂らして泣いている。顔をティッシュで拭いてやる。子供か。深酒すると泣き上戸になる。これはいつもだ。

「……こんなの、心配でおちおち死んでいられないわ」

「なに?」

「なんでもない」

 帰りは泥酔のカズミが心配で、支配人宿泊先まで送ってくれた。両親も同じ宿泊先だったので、一緒に帰った。帰りの車中、カズミはずっと泣いていて「おなつが死んだらどうしよう」ばかり言っていた。わたしに抱きついて、太股をまさぐる手を、後ろに乗っているお父さんが振り払うというコントもついて。

「ああもう、だめだ」

「なに?」

「……吐くぅ」

「えええええ」

 予想はしてた。
 とっさにお母さんがビニール袋を取り出す。間一髪間に合った。でも、万全の体制でゲロしたわけではないので、自然とわたしが受け止めるかたちになってしまう。
 夫のゲロにまみれる6月吉日。

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