ジューンブライド・パンチ
「今日は、ありがとうございましたー!」

 その後、ちょっと考えて止まってしまった。「ふたりでガンバリマス」と耳元で教えてあげる。新郎挨拶、練習したけれど、この泥酔状態ではすんなり言えないはずだ。
 長い文章をそつなく格好つけてダラダラと話す必要は無い。短くても一生懸命話せばいいんだと、新郎挨拶は短めに用意していた。練習したんだけれどね……。

「あん?」

「ふたりで、ガンバリマス」

 わたしの言葉を聞いて、頷きながらマイクに向き直る。

「何も分からないアレなんすけど、○%$×*で、ふたりでがんばって行きまルのでーよろしくお願いしまーす! ありがとーございましたあ!」

 うわぁ、舌がもつれてなにを言っているのかわからない! でもいい。これで終わってしまおう!

「ふぁいとー!」

 いっぱーつ! と、答えてくれた皆さんの優しさが素晴らしい。日本も捨てたもんじゃなかった。

「おなつちゃんを、幸せにしまーす!!」

 そこで拍手喝采。おお、泥酔でそこまで言えるの。

 わたしはとてもとても、嬉しかった。すごく、嬉しかった。涙をぐっと我慢した。

 もっと喋ろうとしたので、わたしが「マイク! 早くどけて!」とスタッフに片付けてもらった。そして、両家両親と共に退場。お見送りへ。

「よし、1回、礼するか」

 もう一度、会場を振り向く。だからさ、きみは泥酔していても、そういうのはちゃんとするのね。わたしの肩にもたれたまま、一礼して退場した。

 プチギフトを配りながらのお見送り。「奈津、大変だな……」みたいな顔の親戚も居たけれど、気にしない。とりあえず、無事に式が終わった安心感でわたしはいっぱい。

 披露宴で新郎が泥酔なんて、ちょっと恥ずかしいことかもしれない。でも、まじめに淡々としたものになるより、わたし達らしくて良かったのかもしれないよ。

「なかなか会いに行けないけどよお! 長生きしてくれよお!」

 その声に振り向くと、カズミが自分のお祖父さんお祖母さんに抱きついて号泣していた。なんなんだ……。泣いてばっかりじゃないの。

 昔の知り合い、昔お世話になった人、見つけては抱きついて、おいおい泣いている。ねぇ、気持ちは優しいんだよね。

「しゃちょー!」

 現在働いている会社の社長のことが大好きなので、抱きついて暑苦しく泣いている。
 お見送りが終わってからも、なかなか控え室にカズミが戻ってこない。友達と抱き合って号泣しているのを放置してきたので、まだやっているのだろう。

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