秘めた想い～紅い菊の伝説２～

　翌日…。
　学校内は浮き足立っていた。
　男子は何かを期待し、女子は計算高い目で周囲を見回していた。一年に一度の祭り、バレンタインデーだった。
　その浮き足だった雰囲気は美鈴の教室でも変わらなかった。
「はい、これ」
　和田美佳はピンクのリボンがついｔ赤い紙包みを大野孝に差し出した。
「なに、これ？」
「チョコレート。勿論『義理』よ」
　美佳は冷たく言って小さな紙包みを炊かしの机の上に放り出した。
「あ、ありがとう。義理でもうれしいよ」
　孝は大切なものを押し抱く様にチョコレートを手に取った。
　教室のあちこちでこのようなセレモニーが開かれている。女子生徒同士で交換している者、ホワイトデーのお返しを目論んでプレゼントしている者、勿論元からの意味で贈っている者もいた。
　その中に美鈴もいた。
「はい、これでいいんでしょう？」
　美鈴は小さな袋を啓介と義男に渡した。
「まぁね、俺はいいんだけど啓介がさ、可哀想だろう？」
　義男は意味深そうに美鈴と啓介をみた。
「なんだよ、俺だってチョコレートくらい…」　啓介が反論する。
「そうじゃない、鏡のチョコレートに意味がるんだろう？」
　義男の言葉に美鈴は両方の耳が熱くなるのを感じた。義男はこういうことを平然と口にする。だが彼は誰が誰を好きなのかをかぎ分ける能力が強い。啓介がもう少し察しがよければ、私が苦労することもないのに…。美鈴は佐枝が羨ましくさえ思えた。
　啓介は無造作に美鈴があげたチョコレートを鞄に突っ込んでいる。
　全くこの男は…、美鈴は啓介の横っ面を叩いてやりたい気分だった。