秘めた想い~紅い菊の伝説2~
 放課後…。
 体育館の裏手で義男は手持ちぶさたに誰かを待っていた。今日はサッカー部のない日だったので美鈴達と一緒に佐枝の面会に行こうと教室を出たところで隣のクラスの女子生徒に呼び止められてここにきたのだ。
 呼び出された用件はわかっていた。今日はそういう日なのだ。だが、この間のこともある。すっぽかされて元々という気持ちでここに来ていた。
 けれども今回は違っていた。
 程なくして義男を呼びだした少女が姿を見せた。慎重は一五〇センチそこそこ、ころころとした感じの可愛い子だった。
「俺を呼んだのは君?」
 義男はできるだけ優しい人物を装おうとした。
 少女は義男に声をかけられただけで耳を赤くしている。自分に自信がないのか、どこかおどおどしていた。
「俺に何か用?」
 義男は分かり切ったことを訊く。
「あの…」
 少女は精一杯勇気を出してチョコレートを差し出した。
「君、隣のクラスの紺野さんだよね?」
 少女は自分の名前を呼ばれたことに驚いた。少しも予測していないことだったからだ。
「はい、絵里香。紺野絵里香です」
 絵里香は顔を真っ赤にしてその場を立ち去ろうとする。
「あ、待って」
 義男はそんな彼女を呼び止めて、「ありがとう」と微笑んで見せた。
 絵里香は嬉しそうに目を輝かせてその場を去っていった。
 今の絵里香にはそれで十分だった。
 だが、そんな二人の様子をじっと見つめている『目』があった。それは言葉こそ発しなかったが、怒りに身を震わせていた。
『私の杉山君』に近づくな!
『目』は明確に物語っていた。
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