秘めた想い～紅い菊の伝説２～

　十分が経過した。
　公園内にある物置の陰に隠れて美鈴は義男の様子を眺めていた。義男の手にあるのはきっとラブレターだ、美鈴はそう確信して義男の様子を窺っているのだ。
　佐枝の気持ちに気づいているはずなのに別の女子と付き合おうというのか、美鈴は義男を許せないと思っていた。だから相手の女子が現れたときに出て行ってやろうと決めていたのだ。
　だが、相手は現れそうにない。
　義男の様子を隠れ見てから既に二十分が経過してしまった。あの手紙は悪戯だったのではないか、美鈴はそう感じ始めていた。
　ブランコに座っている義男も同じように感じたのか、ブランコを降りて公園を去ろうとし始めた。
　少し意地悪をしてやろう、美鈴はそっと歩き出し義男の背後に回った。
「す・ぎ・や・ま・くん」
　背後から声をかけられて義男は慌てて振り返った。手にしていた手紙をコートのポケットに隠す。
「何してたの？」
　美鈴は微笑んで見せた。
　しかしその目は笑っていない。
「べつに、お前こそこんなところで何してるんだよ」
　義男は明らかに挙動不審だった。
　嘘をつくのは下手だなと美鈴は思った。
「べつに、ただ通りかかっただけよ。それより…」
「それより？」
「ポケットに入れたもの、見せてごらん？」
　義男は慌ててポケットから手を抜いた。
　その隙を見逃さず美鈴はポケットに手を突っ込み義男が隠した手紙を抜き取った。
「何するんだよ」
　義男の声は裏返っていた。
　その手紙は薄いピンク色で炭には小さな花が描かれていた。だが、差出人の名前はなかった。
　美鈴はそれをひとしきろもてあそんでから中から便せんをとりだして開いた。
　便せんも封筒と同じデザインだった。
　そこには待ち合わせの場所と時間が書いてあるだけだった。
「何これ？」
　美鈴は手紙を義男に返した。
「だろう、俺もよくわからなくてここに来たんだよ」
　美鈴は何となくその手紙の意図がわかった気がした。どうやら悪戯ではなかったようだ。
「馬鹿ね」
「何が馬鹿だよ」
「ここで告白しようとしたんじゃない」
「でも誰も来なかったぜ」
「私が来たから出るタイミングを失ったんじゃない？」
　美鈴はそう言って辺りを見回す。
「案外どこかで見ているんじゃない？」
　美鈴は右の肘で義男をつついた。
　そう、彼女の言ったとおり物陰から二人を見つめる人影があった。