秘めた想い~紅い菊の伝説2~
 公園から帰った少女は二階にある自分の部屋にまっすぐ上がった。まだ胸が息苦しい。思い切って告白をしてしまおうと手紙を出したのだが、いざとなると近づくことさえできなかった。
 椅子に座って机の上のフォトスタンドを見る。通学の際に盗み撮りした義男の写真がある。少女はその写真に微笑みかける。
 明日は話しかけよう。 
 今日は少し勇気が足りなかっただけだ。
 大丈夫、きっとできる。
 少女は義男の隣で笑っている自分を思い浮かべて幸せな気分に浸っていた。
 そう、彼の傍で笑うのは他の誰でもない私なのだ。男子であれば誰とでも話をしたり遊んだりする女子たちとは違うのだ。
 私は彼だけを見つめていくことができる。
 私は彼を裏切りはしない。
 私こそが彼に相応しいのだ。
 少女は消しゴムに緑色のペンで書いた義男の名前を見てそっとそれに触れた。
 今日、彼は来てくれた。
 待ち合わせの場所と時間しか書いていない素っ気ない手紙だったのに私に会いに来てくれた。『消しゴムのおまじない』は効力を発揮しだしたのだ。
 きっとうまくいく。私の想いはきっと彼に伝わる。少女は一人確信した。
 けれども焦ってはいけない。
 私はそこいらの恋愛に餓えた女ではない。 こういうことには手順が大事なのだ。ゆっくりと二人の距離を縮めていき、彼に私という存在を気づかせるのだ。気づかせて、私の良さを見せる。そして彼の隣の座を手に入れるのだ。
 だが、邪魔者がいる。
 今日も一人居たではないか。
 彼はクラスでも目立つ方だった。だから彼の周りにはいつも人が居る。男子もいるし、女子もいる。恋愛に餓えた女たちがいる。
 邪魔者を排除しなければならない。
 少女は父親から譲ってもらった古いノートパソコンを開くと検索サイトに『恋敵 呪い』と入力した。
 程なくプラウザソフトの中に幾つもの候補がリストアップされた。少女は一番上野候補をクリックした。
 そこには恋敵への呪いの方法が書かれていた。その中に一つに少女は引き寄せられた。
『恋敵への呪い
 あなたの恋敵に対しての呪いです。
 藁人形を用意してください(通販又は手作り)
 恋敵の写真と赤いロウソクを用意してください
 藁人形に恋敵の写真を貼ります
 赤いロウソクに火をつけてロウを藁人形の頭に垂らし、貼りつけた写真に垂れるまで続けます
 針で恋敵の「頭」「耳」「首」「肩」「胸」の部分を針で刺します
 恋敵にはなにかしら災いが起き、あなたの恋の邪魔にならなくなります…』
 少女はこの呪いの方法が気に入った。陰湿なだけに大きな効果がありそうに思えた。邪魔者にはそれに見合うだけの罰を加えなければならないのだ。
 少女は早速公園にいた女子の写真を手に入れようと思った。
< 4 / 37 >

この作品をシェア

pagetop