秘めた想い~紅い菊の伝説2~
「あんた昨日ラブレターを貰ったんだって?」 佐伯佐枝が義男に詰め寄る。
 その目は笑っていない。
 義男はすぐさま美鈴の方をみる。
 彼の視線を感じた美鈴は手を前に合わせて頭を下げる。実は今朝方佐枝と一緒に登校するときに義男の昨日の行動が話題になり、つい口を滑らせてしまったのだ。
「別にラブレターなんかじゃないよ」
 義男は少しふてくされて昨日の手紙を机の上に投げ出した。
「ほう、ピンクの封筒ねぇ」
 佐枝は投げ出された手紙を手に取ると義男を睨みつける。
「中を見てみろよ」
 義男の言葉に促されて佐枝は封筒の中身を見た。相変わらず目は笑っていない。
 その様子を美鈴はハラハラして見ていた。
 佐枝はしばらく便箋を眺めていたが、やがて目を上げて義男の顔を見た。
「何これ?」
「だろう?時間と場所しか書いていない…」
「直接会って告白しようとしたんじゃないの」
 佐枝の言葉には心を刺し貫くような強さが込められていた。
「知らないよ、誰も来なかったんだから」
 義男の言葉は佐枝に押されている。
 佐枝は嘗め回すように義男に視線を向ける。
「でも興味はあったんでしょう?」
 佐枝の言葉に義男は何も答えられない。
「まったく、あんたって人はねぇ…」
 佐枝がそう言いかけたとき、始業のチャイムが鳴った。このときとばかりに美鈴はまだ言い足りなそうな佐枝を彼女の席に促した。 佐枝と美鈴が去っていくのを見て義男は溜息をついた。
「散々だったな」
 それまで我関せずと言った態度をしていた啓介が振り向きざまに言った。
「なんで庇ってくれなかったんだよ」
 義男が小声で啓介に抗議をする。
 啓介は二つの掌を上に向けて「仕方がない」といった表情を見せて前に向いた。
 担任が出席を取り始め、彼ら学生たちの一日が始まった。
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