If.~魂の拠所~
序章.死せる者達





ふわりふわりと、自分の体が空中を浮遊しているような感覚に少女は目を覚ました。


何かの錯覚だと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。


少女の足は、確かに地面に届いてはいなかった。




「……わぁ」




不思議だった、だって自分はただの人間なのに。


人間は空など飛べないのだ。


実際は飛んでいるというより浮いているという高さだが、人間は決して浮く事も出来ない。


小さな村で生まれ、平凡に暮らしてここまで成長しただけの自分が、こんな事になってしまっていいのだろうかと思ってしまうが、まぁいいかと心の中で呟いた。


こんな経験、二度と出来ないだろう。


だったら、楽しむに越した事はない、非日常を楽しむくらい許される筈だ。


体は思っていたよりもちゃんと言う事を聞いてくれた。


もっと高くに行ってみたいと思えばそうなったし、下がりたいと思えばまた、そうなった。


ただ、地に降りる事だけは出来なかったが。




「あ、ここ……真っ直ぐ行ったら村だ」




最初は全く知らない場所に居たと思っていたが、そんな事もなかったらしい。


既に今居る場所は見知っている、真っ直ぐ行けば生まれ育った馴染みの村だ。


何かに引かれる様に、自然的にそちらにふわり飛んでいく。


途端に、後頭部にずきりと小さな痛みが奔った。




「いた……」




思わず痛んだ箇所を押さえてしまう。


確かな痛みを感じるが、ほんの小さな痛みだ、我慢出来ない程ではない。


我慢しながら、少女は村に向かって移動した。


木々の間の整備された道を進んでいくうちに、後頭部の痛みがより確かなものに変わった。


小石を当てられるようだった痛みが、何かで殴られるような酷い鈍痛に。


その場にしゃがみ込みたくなる衝動に駆られるが、それは許されなかった。


強い力に引かれる様にして、少女の体は勝手に移動を続ける。


嫌だ、と思った。





< 1 / 9 >

この作品をシェア

pagetop