焼け木杭に火はつくか?
「で、六年か七年くらい前だって教えたら、長谷さんが夏海さんをパン嫌いにさせた元カレだったのかって、英吾が言い出して。それで判ったんだよ、長谷さんが夏海さんの元カレだったってこと」
「英吾が?」

聡と良太郎のやり取りを黙して聞いていた夏海は、その言葉に驚愕の声をあげた。

まさか。
どうして。

そんな言葉が、夏海の顔には浮かんでいた。

「サトルくん。その日さ、俺もここにいたよね? そんな話、聞いてないよ?」

記憶をたぐり寄せて訝しがる良太郎に聡は答えを聞かせた。

「そりゃ、おメーと英吾が、ここでナポリタンの大食い選手権なんぞを勝手に始めだした挙げ句、負けたおメーは腹が苦しいのなんのって文句言いながら帰った後の話だからな」

したり顔の聡から告げられた言葉に「ちくしょーっ 帰るんじゃなかったっ」と言って悔しがる良太郎の後頭部に、夏海の手が伸びてピシャリと叩いた。

「三島良太郎。あんたね、いい年して下らないことしてんじゃないのっ 全く」

腹の底から呆れ果てた声を絞り出し、頭を抱えるように額に手を当てた夏海に、良太郎は口を尖らせて抗議する。
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