焼け木杭に火はつくか?
「あのとき、これどうしたのって聞かれたわ。だから貰ったのよって答えたの。あの子、それ以上は何にも言わなかったし、パンだって、私、あの子から貰ってないわよ」

怒ったように言う夏海に、英吾は唇を尖らせて反論した。

「だってさ、家にまで連れていったのに、結局、夏海さん、それ内緒にしてたじゃん。だから、長谷さんに会ったこと、言っていいのかどうか、秋ちゃんには判んなかったんだよ。それじゃなくても、秋ちゃん、夏海さんにはちょっと遠慮があるからさ」
「何よ、遠慮って?」

英吾にしては珍しい、奥歯に物を挟んだような言い方のその言葉に、夏海はその顔を険しくした。
英吾はどうしようと問いかけるように、カウンターの中の聡に目を向けた。

「いい機会だから、もう、それも話しちまえって」
「なんの話よ?」

言いなさいよと夏海は英吾を肘で小突いて、話の続きを促した。
英吾は、一つ、重い息を吐きだすと、決心したように話しだした。
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