焼け木杭に火はつくか?
そんな良太郎に、小説家なる肩書きが付いたのは、大学二年の夏の頃だった。
大学一年の冬に、ある出版社主催の新人文学賞に、二ヶ月ほどで書き上げた小説を送ったことがきっかけだった。

応募しようと思った動機は、至って単純で明確だった。
賞金に目が眩んだ。
それだけだった。

学業の傍ら、良太郎はアルバイトにも励み、そうして貯めた資金で教習所に通い、念願だった中型二輪車の免許を手に入れた。
しかし、肝心のバイクを手に入れるための資金がなかなか貯まらなかった。
良太郎が狙っていたバイクは、そこそこ値の張る代物だった。

そんなとき、アルバイト先で休憩中になんとなく眺めていた雑誌で、『賞金100万』の文字を目にした良太郎は、これだと閃いてしまった。


これで賞を取れば、バイクが買える!


何故か、そんなことを考えてしまった。
賞を取れる保証など微塵もないのに、取ったことを前提に購入計画まで立ててしまったくらい、これだと思ってしまった。
応募に至った動機と経緯は、そんな感じだった。
決して、文筆業で食べて生きたいなどという、そんな大それた野望を抱いてのことではなかった。


目指せ!
大賞!
バイクのために。


そんなスローガンのもと、一人、夜遅くまでパソコンに向かい、良太郎はひたすらキーボードを叩き続けた。
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