焼け木杭に火はつくか?
そんな聡を知っているだけに、子どものころから聞かされてきた聡に対する『無口な大人しい子』という評が、良太郎にも英吾にも不思議でならなかった。
そして、大人になるにつれ、良太郎の中にある聡に対する印象は、更に変わった。
聡には、子どものころから既に『自分で作った自分ルール』があり、それをその小さな胸に抱きかかえ、それに従い生きていこうとしているようなところがあった。
こうと決めれば、無鉄砲としか思えないようなことすら、聡はさらりとやってのけてしまう。
その反面、動かないと決めたら梃子でも何でも動かない。
そんな頑固さもあった。
興味を持ったことには、何時間でも向き合えるが、興味の無いことには一秒たりとも向き合えない。
大勢といることも、一人でいることも、聡には同じだったのではないかとそう思う。

聡ワールドに住むたった一人の住人。

それが聡の正体なのだと、いつの頃からか、良太郎はそうなふうに考えるようになっていた。
見た目の印象からはかけ離れた、聡のそんな強くてしなやかなその内面を知っているだけに、良太郎にはカフェを始めたという聡のその決断には、それほどの意外性も驚きも感じなかった。
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