焼け木杭に火はつくか?
聡の淹れる珈琲は、想像以上に良太郎の舌を満足させた。素直に美味いなとそう思った。
美食家を気取るつもりはないが、珈琲党の信二の影響で、珈琲だけは良太郎もこだわりがあった。
東京にいたころは、ただの色付き水かと言いたくなるような味で、値段だけは高級店並という珈琲を飲むことも多かっただけに、正直、聡の淹れた珈琲の味と香りに驚いた。
同じ豆でも焙煎の仕方や淹れ方で珈琲は味は変わる。
焙煎は人に頼んでいると聡は言うが、あくまでも聡好みでそれはされているはずだ。
ならば、この味と香りは聡自身のこだわりなのだろう。
その珈琲へのこだわりを見ただけでも、聡が生半可な気持ちで始めたことではないことは、十分に窺い知れた。
紅茶党の道代や、インスタントでも美味いという英吾ですら、聡の珈琲には驚いたという。
どこかで修業でもしてきたのかと、真面目な顔で良太郎が尋ねると、まあなと聡は笑った。


-まあ、バイト先は、これでも吟味して選んだからな。
-いろいろ教えてもらったよ。


聡から返ってきた言葉に、良太郎は改めて聡に感服した。
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