焼け木杭に火はつくか?
「夏海ちゃんなんて、茶碗蒸し作らせたんでしょ?」
「もう、ね。プリンで我慢しなよっ言ったのに、聞かない、聞かない」
「プリンと茶碗蒸しを同じにするのは、おばさんも許さないわよ」
「えーっ 同じでしょ? 甘いか、しょっぱいかでしょ?」
「……おばさん、どこで英吾くんの育て方、間違えたのかしら」
「間違ってないって。ほら、こんなすくすく育ったじゃん」

放っておくといつまでも続きそうな道代と英吾の長閑な会話に、良太郎は声をあげ笑った。
二人の話を聞く限り、心配するほどのこともなく、聡は一人でもうまく店を切り盛りしているようだった。
そして、実家に舞い戻ってきてからというもの、良太郎は三日とあけず『Waoto』に足を運んだ。
カウンター席に座って聡の淹れたコーヒーを飲みながら、ノートに思いついたことを書き留めたり、書評を書かなければならない書籍を持ち込んで、朝から晩まで読書を楽しんだりした。
締め切りが迫る時期になると、ここに来るまでの時間も惜しくなり、ひたすら家に引きこもってしまうが、そうでなければ『Waoto』で過ごしていることも多かった。
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