焼け木杭に火はつくか?
聡がそろそろ独立して自分の店を持とうと決めて、市内の不動産屋を何軒か訪ね歩いていたとき、その中の一軒から『こんな物件がありますよ』と、この洋館を紹介されたのだと聡が教えてくれた。
生まれ育った場所の馴染みある建物に引き合わされて、これも何かの巡り合わせかなと、聡はそう思ったのだと言う。
内装はカフェ仕様に改装する必要があったけれど、白い漆喰の壁と年季の入った梁は、聡のこだわりで残された。
煙草を吸うお客さんには申し訳ないけど、店内は全席禁煙だから、味のある漆喰の白壁にしたかったのだと聡は言っていた。
床を板張りにする際、働いていたカフェのオーナーに教えられた、蜜蝋で作られたよい香りのするワックスを使い、それをきっかけに聡は蜜蝋にも興味を持った。
人伝に蜜蝋を手作りをしている若い作家を紹介され、店を始めた当初から、店内の至る所にキャンドルスタンドを置いてその作家の蜜蝋を飾っていた。
いつの頃から、月に一度、キャンドルナイトと称して、電気照明を落とし様々な形をした蜜蝋に灯を灯して楽しんでいるらしい。
その日を楽しみにしている客も、少なからずいるらしい。
< 75 / 202 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop