紺碧の海 金色の砂漠
「だから言ったでしょ? ここの砂はサラサラで脆いから、アルの腕だと太過ぎて崩れるって」

「……わかった。では人を集め、もっと頑丈な砂の城を」

「いいって! もういいからっ」


舞がパンパン手を払って立ち上がると、ミシュアル国王は悔しそうな顔をする。

彼にとって、思いどおりにいかず“諦める”という行為は相当な我慢を要するらしい。それも、愛する正妃の願いを叶えてやれなかった、ってトコも重要だ。

でも、彼に任せていたら、どこまで徹底的にやるかわからない。

結婚前に日本で会って間もなくのころ、『白馬の王子様がよかった』なんて、舞は勢いで口にしてしまった。それを真に受け、ミシュアル国王は本物の白馬に乗ってやって来たのだ。


(本物の城を砂浜に建てる、とか言い出したら……ああ、アルならやりそう)


「も、もういいんだって。その、アルのせいじゃないから」

「だが、砂の城の中で手を繋ぎたかったのであろう?」

「それは……アルとだったらどこで繋いでも幸せだから、いいの」
 

舞は二本立てのビーチパラソルの下、砂浜に座り込んだままのミシュアル国王の隣に寄り添い、そっと手を重ねた。

海外で過ごせるハネムーンは、あと一週間だけ。

クアルンに戻ればまた、王家のルールや国の法律、ムスリムの掟……たくさんの制約に縛られる。砂漠の国の王妃になった以上、覚悟はしているが、不安を完全に消し去ることはできない。


「舞……」


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