紺碧の海 金色の砂漠
大使館の車両には、舞も乗せてもらったことがある。

王の側近、しかもシークの称号を持つヤイーシュなら、多分あのリムジンに違いない。


「はい。車体はもちろん、ガラスも防弾ですので多少の衝撃にはビクともしません。ですが、運の悪いことにガソリンタンクを破損しました。漏れたガソリンに引火して……。死人が出なかったのが幸いです」


殊勝な顔で言うヤイーシュに、舞はうっかり頷きそうになった。

でも、なにかおかしい……


「ちょっと待って! それでなんで偽名を使ってるわけ?」


普通に入国すれば済むことだ。というより、そんな重傷でわざわざ来る必要がないだろう。


「自主的に退院を決めたため、大使館員に止められました。入国の際にやむなく母方の姓を。それと……陛下への報告は私の役目ですので」


しらっとした顔で答えた後、ヤイーシュは口にチャックをしてしまった。


ミシュアル国王相手なら“泣き落とし”や“色仕掛け”の手が使えるが、ヤイーシュ相手ではどうしよもない。

結局、わかったようなわからないような……舞はヤイーシュの牙城を突き崩すことができず、あえなく退散したのである。  


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