紺碧の海 金色の砂漠

(11)さまよえる砂漠の王

(11)さまよえる砂漠の王



本島から北へ約二百キロ、国王一行は飛行艇で第二油田基地を視察に訪れていた。

安全のため、周囲は海軍に警戒させている。今日ばかりは、ロシアやアメリカの潜水艦はおろか、サメの一匹とてアズウォルド海軍のチェックなしでは領海内を横切れない、という厳重さだ。

そもそもミシュアルの敵対勢力に、そこまでの警戒に値する軍事力はないのだが……念のためであった。


『レイ国王陛下。このたびの寛大なるお申し出、心より感謝申し上げます』


レイにアラビア語で話しかけてきたのはスーツ姿のヤイーシュだ。

ふたりは監視棟に立ち、窓からデッキを見ている。

そこにはティナと舞が並んで油田の責任者、ジョージ・カンザキから油田の採掘作業についてレクチャーを受けていた。


『他人の身分証を使い、偽名で入国した男を公賓として遇し、国立リゾートの滞在を認めたことかな? ミスター・キャラハン』

『……恐れ入ります』


レイはターヒルとは面識がある。だが、このヤイーシュとは初対面であった。


ヤイーシュは、アメリカ人との混血というだけあり、肌の色はミシュアルよりレイに近い印象だ。髪の色も淡く、金に近い亜麻色……たしか砂色(サンドベージュ)と言っていた。

何よりレイが身近に感じるのは、青い瞳のせいかも知れない。アズルブルーより透きとおった空の青。中東にも青い瞳の部族がいるというが、ヤイーシュはそういった部族とは関係ないらしい。


本来、重傷者である彼を引っ張り出すのはどうかと思ったが……。様々な事情を考慮し、ヤイーシュの同行を許可した。


『シャムスには事実を伝えずともよかったのだろうか?』


レイがぽつりと呟いた言葉にヤイーシュが応じる。


『はい。夫が暴動の首謀者として逮捕されたと聞けば、彼女は悲しむでしょう。ターヒルもそれを望みません』


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