紺碧の海 金色の砂漠
ミシュアルが王宮に入ったほぼ同時刻、ターヒルの逮捕が伝えられた。

衛兵らの顔ぶれに変わった様子はない。正式な報告以外、彼らから話しかけることはできないので、ミシュアルから質問した。すると、多くの者が『側近中の側近であるターヒルがなぜ?』と疑問を口にするだけだ。

それだけではない。

朋友ターヒルの危機にどうしてヤイーシュが帰国しないのか。そんな声すら上がった。

クアルンではヤイーシュが日本に足止めされていたことも、在日大使館で爆破事件があったことすら報道されておらず……。


(なんということだ! これほどまで徹底した報道規制、情報の遮断が行われていたとは……)


『わかった! ではもうひとりの責任者、リドワーン・ビン・ワッハーブを呼べ』

『恐れながら申し上げます。リドワーン殿下は今朝、ルシーアの宮殿におられますカイサル様のもとに向かわれました』


近衛隊長が一歩前へ出てひざまずくなり答えた。


『それは私が帰国する、という一報を受けてか?』

『それは……わかりかねますが』

『よい。では、逮捕したターヒルをただちに釈放し、私の前に連れてくるのだ』


近衛隊長はうつむいたまま息を飲む。


『国王命令がきけぬか?』

『い、いえ』

『まさかとは思うが――すでに処刑したとは言うまいな』


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