紺碧の海 金色の砂漠
「――その前に、先手を打ってあなたの立場を明確にする必要がある。子供がいなければ、日本で日常生活が送れるように。懐妊が明らかになれば、アルの子供のために全力を尽くそうと。どうしてそれが理解できない!」


笹原の言いたいことはわかった。彼が兄のために自由を放棄してクアルンに戻る覚悟をしていることも。

だが……。


「助けてくれたことは感謝してる。でも、落ちつくのはそっちじゃないの?」

「何?」

「何回も言うようだけど、アルは死んでない。そりゃ、わたしが襲われることを心配してあなたを寄越してくれたんだろうけど……。“王太子の剣”だって保険みたいなもんだと思う。アルは裏を掻かれたり、騙されたり、そう簡単に罠にはまるような人じゃないわよ」


笹原は唖然として舞を見ている。


先手必勝も結構だが、急いては事を仕損ずるともいう。

ミシュアル国王はどんな不利な条件だって乗り越えて誓いを守ってくれた。これまで、さんざん先走っては余計に迷惑をかけてきた気がする。


(だから今度は……アルを信じる。無駄に悲しんだり、怒ったり、動き回ったりしない!)


舞は心を決めるとレイ国王を振り返った。


「わたしがここに居ることで、アズウォルドに迷惑をかけるなら、出て行きます」


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