紺碧の海 金色の砂漠

(18)キスの誘惑

(18)キスの誘惑



コテージの中は静まり返っていた。

雨は降り出したときと同じく突然やみ、迎えに来たヘリがミシュアル国王と舞を乗せて飛び立った。

リビングにいた海軍の兵士や潜水士たちも別のヘリで引き上げる。代わりにやって来たのは護衛官や衛兵だ。

彼らを伴い、レイは崖崩れの様子を確認に向かった。



(あの凄い音が崖崩れだったなんて……)


舞と一緒に話を聞き、ティナは背筋が寒くなる。

もし舞を巻き込んでいたら、とんでもない事態になるところだった。舞の好意に甘えて、年長者でありながら瑠璃宮殿を飛び出すなんて……。

王妃にあるまじき行いだと、責められても文句は言えない。


ティナは無事であったほうの部屋にひとり佇んでいた。ベッドの端に腰掛け、テーブルに置かれた電池式ランタンをジッと見つめる。

レイはティナの身を案じて、スコールの降り注ぐ海を泳いできてくれた。

なんでもないことのように言っていたが、本当は国王として許されぬことだろう。その証拠に、巡洋艦の出動履歴を消し、公表しないように密かに命じていた。おそらく、サトウ補佐官にも報告しないつもりなのだ。

それにこの騒動自体も、レイは自分の責任だと軍や警察関係者に告げていた。

ミシュアル国王と舞をコテージに招いたのは自分で、ティナに舞を連れて先に行くよう命じたのも自分である、と。

夫婦生活がなくなったことと、ローラ・ウィリアムズの件は別なのだ。

レイは浮気などしない男性だから、ティナ以外の誰かと関係したのなら、それは本気に違いない。


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