龍とわたしと裏庭で⑥【高3新学期編】
「それは楽しみな事でございますね」

和子さんは、またホホホッと笑った。


少し気持ちが落ち着いて、みんなを笑顔で迎えようと思っていたら、圭吾さんが足速に戻ってきた。

一人で――


「圭吾さん? 悟くんは?」


「出せないんだ――ゴメン、説明している時間がない。君の力を借りたい」


わたしに何が出来るっていうの?

訝しく思いながらも頷く。


「ばあや、懐紙を持っているか?」


和子さんが帯に挟んだ懐紙を差し出した。


「よし。志鶴、僕の首に腕を回して。そう――走るからね。しっかり捕まって」


圭吾さんはわたしを抱き上げると、来た道を戻り始めた。


廊下の角を曲がると、さっきまでわたしがいた場所は様変わりしていた。

天井に大きな穴が空いていて、星空が見える。

辺りに散在してるのは、屋根の残骸だろうか。

何よりも驚いたのは、廊下のど真ん中にそびえ立つ大きな黒い岩だ。

要さんが、岩の裂け目に両手を突っ込んでいた。

裂け目からは、どろどろした緑色のモノが、溢れ出るように床へと流れている。

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