NY恋物語

昨夜の大使館主催のパーティには
アメリカで活躍している
日本の著名人が何人も招待されていた。
錚々たる面々の出席に
一夜限りで散会するのは
あまりに惜しいとの事で
日本人会でも何か催したいと
急遽今日のイベントが企画されたらしい。


MLBからはゴローを筆頭に
有名どころが何人か出席し
ゴルフ界からは
現在アメリカツアーに参戦中の
里見藍と悠の姉妹プロと
「まるちゃん」の愛称で親しまれている
丸野広樹。テニス界からは
秀明から遅れること
二年でプロ宣言をし
現在アメリカで活躍中の当麻くんと
親日家で知られ
その夫人も日本女性であるケビン選手。


そして今年全米オープンで
ベスト4に残った秀明。
現在世界ランキング1位のマーラーが
欠場だったとはいえ
並み居る欧米の強豪を抑えての
東洋人、しかも日本人のベスト4は快挙だ。


そんな世界で活躍する
邦人のスター選手が
一同に会する機会は
日本でだって滅多にない。
たった一夜のパーティだけで
終わりにしてしまうのは勿体無いと
思う気持ちはわからなくはない。


「最初は断るつもりだったの。
でもエキシビジョンで
ここで暮らす日本の子供達と一緒に
テニスや野球をするというのがあって
それで秀明が二つ返事でOKしたのよ」

「秀明らしい…」

「そうね。彼は… とても優しいわ」


ふっと和らぐ彼女の横顔が
何となく気にかかった。
マネージャーなだけあって
秀明と共に過す時間が長いのだから
彼の人となりだって性格だって
よく知ってはいるだろうけれど…


そんな蕩けそうな顔で秀明を語らないで欲しい。


彼らしさも
彼の本当の優しさも
誰より彼を一番良く理解しているのは
この私なのだから!と
膝の上で握る拳に力がこもった。


「だから…秀明は
アナタに今日のことを
連絡しなかったのよ?
日程的に もうフライトの変更は
無理だろうからって」


そうだったんだ。


「それならいっそミズ綾川に
今回の渡米をキャンセルしてもらいなさいと
提案したのよ?そうすれば
今日のイベントが終り次第すぐに
調整を兼ねた合宿をスタートできるもの」


少し顎を上げ、細められた瞳が
私をチラリと一瞥した。
刺々しい言葉と挑発と意地悪を
全て足して2で割ったような視線から
アンタなんか来なきゃよかった、と
思っているのがアリアリと分かった。


「お休みは他にもあるでしょうに・・・
日本人の女性はキリスト教徒でもないのに
どうしてこんなにクリスマスに拘るのかしらね?」


まるでサンタを待つお子ちゃまよね、と
ヨーコはクスクス笑い出した。



嫌な女!
嫌味な言い方しないで
はっきり言えばいいじゃない!と
腹を立てても
彼女の発言を100%否定できないだけに
何も言えないまま唇を噛んだ。


ごめん。秀明・・・


いくら美人で優秀で
貴方が信頼する
マネージャーであっても
私はこの人とは友達にはなれない。

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