NY恋物語

「で、ホテルはどこなの?」

「え?」

「ホテル。
どこにステイなのかって聞いてるの」

「ホテルは取ってません」


ヨーコは Oh my god… と
吐息で呟やき
肩を竦めて両手を小さく掲げた。


「なぜ?
どうしてホテルを予約していないの?
どこで寝るのよ?!」


どこで、ですって?
ステディな恋人を訪ねて
やって来たというのに
そんな事を聞く方が野暮でしょう?と
言い返してやりたい気持ちをぐっと堪え
静かに答えた。


「いつもこっちに来た時は
秀明のアパートメントに泊まりますから」


ふん!どうよ?こればかりは恋人の特権。
いくらマネージャーでも文句は言わせない。


「今回も?」

「もちろん」

「聞いてないわ」

「アナタが聞いてなくても
そうなんです。秀明も承知しているわ。
彼の部屋へ送ってください」


やれやれ、と言わんばかりに
ヨーコはシートの背に身体を預けた。


「悪いけど
秀明のアパートメントには
連れてはいけないわ。」

「どうして?!」

「どうして、ですって?
……ねえ、アナタは本当に
秀明の恋人なのかしら?」


別人を拾ってしまったかしらね?と
盛大なため息をつかれて
さすがに我慢も限界を越えた私は
声を荒げた。


「どういう意味ですか!
私は正真正銘、間違いなく
秀明の恋人です!」

「……そう?
もしも私が彼の恋人なら
今この時期に彼の部屋へステイしようなんて
思わないわ。秀明が今、どういう立場に
置かれているのか・・・
アナタ、知ってるでしょう?」


そんな事、改めて聞かれなくても
よく知っている。
秀明は今やNLBのゴローと
肩を並べるほど
アメリカでは名の知れた日本人だ。


「そうよ?
でもテニスに疎い日本での評価は
今年の全米でベスト4に
残ってからでしょうけれどね」


確かにそうだった。
日本でテニスというとプロアマ問わず
スポーツとして親しまれてはいても
メジャーとはいえない。
世界大会であってもTV放送は少ないし
その報道も、ほよどの番狂わせや
快挙といえる出来事がなければ
淡々とした結果の報告だけで
済まされてしまうような扱いだ。


「でもここでは違うの。
常にクールで実力もある秀明は
評価も人気もツアーで転戦中から
かなりのものだったわ。
全米オープンでのベスト4で
それは揺ぎ無いものになったの。
彼は正真正銘のヒーローになったわ。
人種を超えたアメリカンヒーローにね」


そう淡々と語ったヨーコが
すっと路肩に車を寄せて止めた。


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