本気の恋の始め方

「ありがとうございます、鮎子さん」

「だけど何かされたら、私に言うのよ。ここにいられなくしてやるから」

「えっ!」



なんでそんなに恐ろしいことを言うの、鮎子さん。


思わず背中がピンと伸びる。


ここにいられなくする、なんて冗談に決まってるけど。

あちこちに秘密の繋がりを持っているらしい鮎子さんが言うと、妙に説得力があって恐ろしい……。


ぷるぷると首を横に振った。



「そんなことないですよ。大丈夫です。千野君はとっても優しくていい子です」

「まぁねぇ……」



大きな瞳をぎらりと輝かせて、鮎子さんは胸元から薄い手帳を取り出し開く。



「千野千早(チノチハヤ)。二十二歳。O型。幼稚園から大学までずっと高天原学園に通う生粋のおぼっちゃま。

最終学歴は高天原大学文学部卒。噂じゃあの名物教授の四野宮綾彦(シノミヤアヤヒコ)に、助手にならないかって誘われたとか誘われなかったとかいうほどの、学部長賞も取った秀才。

一ノ瀬ホールディングスの十二次試験も、すべてトップクラスの成績を収め、入社後は社内の評判、上司の覚え、女子社員の人気も新入社員のトップ3入りなんて、スーパーマンすぎて出来すぎでしょー」

「そ……そうですね。そういわれれば、すごすぎますね」





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