主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
息吹の呼びかけに反応するかのように光った青白い核を見た主さまは、雪男の覚醒が近いのだと確信して腕を組むと壁に寄りかかった。


「…急ぐ必要はない。もう少し眠っていろ」


「やだ。雪ちゃんに会いたいもん。ねえ雪ちゃんお願い、早く戻って来て。雪ちゃんが居ないと寂しいよ」


ぴかぴかっ。


また光ったので、もうこれは気のせいではないのだと確信した息吹は飛び跳ねて喜んで滑って転びそうになったのを慌てて主さまに抱きしめられて難を逃れた。


「…もう出るぞ」


「雪ちゃんっ、明日も来るからね!今日よりもおっきくなってね!どんどんおっきくなってね!」


半ば部屋から引きずり出すように息吹を連れ去って戸を閉めた主さまは、一緒にまた床につこうと思っていたのにすっかり興奮してしまってはしゃぐ息吹と一緒に縁側に座って朝陽を浴びるという有様になってしまった。


「雪ちゃん観察日記更新しなきゃ!今日はとってもおっきくなってました、と…」


「…そんなに雪男が戻って来るのが嬉しいか」


「嬉しい!雪ちゃん色々手伝ってくれたし、ぶっきらぼうだけど時々どきってする位優しくなるの。あ、その辺は主さまと同じかな」


「ふん。じゃあ俺と夫婦にならずに雪男と夫婦になった可能性もあるということか」


「え?それはないと思うよ、私はずっと主さまのお嫁さんになりたいと思ってたから。…ぬ、主さま?」


いじけそうになっていたところに息吹の直球の言葉が胸を直撃して、朝っぱらからむらっとして息吹の腕を掴んで顔を近付けて唇を奪おうとした時――


「おやおや、お盛んだねえ」


「!せ、晴明…」


「父様!わあ、どうしたのっ?何かご用?」


「可愛い愛娘に会いに来たんだよ。で?今のは一体何かな?無理矢理唇を奪おうとしていたように見えたが。どうやらそこで知らん顔をしている色ぼけ鬼は命が惜しいらしいな」


「…お、俺はもう寝る」


すたこら退散して部屋に戻って行った主さまに手を振っていた息吹は、隣に座った晴明にくりんと首を向けて膝に上り込んだ。


「父様あのね、雪ちゃんがおっきくなったの!私が話しかけるとぴかって光るの!雪ちゃんもうすぐ戻って来てくれると思う?」


直衣と烏帽子で相変わらずきっちり決めている晴明は、驚いたように瞳を丸くして見せると息吹の髪を撫でてくすりと笑った。


「思いに応えたか。ああ戻って来るとも。毎日話しかけておあげ。ああこれから面白くなりそうだねえ。やはり十六夜の傍に居ると退屈せぬな」


「でしょっ?主さまってとっても面白いの!」


…そう言わしめるのは晴明と息吹だけ。
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