主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
完全にいじけてしまった主さまの機嫌を取り戻すために部屋に戻って行った息吹を見送った晴明は、足音を忍ばせて地下室へと続く階段を降りると眠りについている雪男に会いに行った。


「おお、確かに大きくなっている。どうだ雪男…思い出したか?」


ぴかっ。


「そうか。では…今も息吹を愛しているか?」


ぴかぴかっ。


「だが息吹は十六夜と夫婦になったぞ。それでも愛しているというのか?」


ぴかぴかぴかっ。


――反応を見せる青白い核は確かに言葉を理解していて、主さまいじめにかけては右に出る者は居ないとされる晴明は寝台に置かれていた氷中花を手に笑みを浮かべた。


「面白いぞ雪男。そなたを救うことができて良かった。息吹は人のようなまともな暮らしを送ることができず、また十六夜の目を搔い潜って息吹をどうにかしようとする輩が現れるかもしれぬ。そなたが息吹を守るのだ。いいな?」


またぴかっと光り、欲しい答えを得た晴明は戸を閉めて階段を上がり、縁側に戻るとそこに氷中花の入った器を置いて待っていた山姫の手を引くと、牛車に乗り込んで幽玄町を後にした。


――そして主さまのご機嫌取りをしていた息吹は、膝に顔を埋めて顔を上げない主さまの髪を櫛で梳いてやりながら何度も主さまの肩を揺すっていた。


「ねえ主さまったら。ちゃんと寝た方がいいよ、目の下にくまができちゃうよ」


「…これしきでできるか」


「雪ちゃんが戻って来ることを喜んじゃいけないの?主さまの側近だったでしょ?よく喧嘩してたけど仲が良いから喧嘩するんでしょ?心配しなくても私が1番好きなのは主さまだからいじけないで。ね?」


「……」


またもやの直球に耳が赤くなった主さまの反応を見た息吹は、また主さまの肩を押してのそりと起き上がらせると一緒に床に横になって切れ長の瞳を覗き込んだ。


「…雪男とあまり親しげにするな。殺してしまいそうになる」


「雪ちゃんを殺したら離縁してやるんだから」


「…」


ぐうの音も出なくなって寝返りを打って背を向けた主さまに抱き着いた息吹は、橙色のお揃いの髪紐をいじりながら地下室の雪男を思った。


「またみんな揃うんだね。雪ちゃん…ちゃんと元通りになるよね?」


「…知らん。それより…食わせろ」


「!や、やだっ、朝だよ!?ちょ、帯外さないでっ!」


「朝でなければいつならいいんだ?百鬼夜行を休めと言うのか」


押し問答をしつつも、2人共雪男の復活を心から願い、また2人で地下室に押しかけようと話し合って指を絡め合った。

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