主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※
ぱしゃり。
――外の庭で誰かが水を撒いている音がした。
ぱしゃり。
ぱしゃり。
…そうやって毎朝毎夕雪男と一緒に庭の花に水をやって、蕾が大きくなって花開く姿を見ているのが好きだった。
ぱしゃり。
「…雪ちゃん…?」
うとうとまろどんでいたが、もしかして雪男が戻って来てくれたのかもしれない思った息吹はがばっと起き上がり、腕枕をしてくれていた主さまの腕を踏んづけて障子を開けて外に飛び出た。
「雪ちゃん!」
「おお息吹か、どうした?」
「あ…銀さん…」
寝癖がついてぼさぼさになっていた頭のまま、縁側から銀を見下ろした息吹の目尻に一気に涙が溢れ出してきて止まらなくなり、銀は桶を大地に置いて立ったまま泣いている息吹の隣に腰かけた。
「まあ座れ」
「…うん…」
「どうした。俺を雪男と勘違いしたのか?」
「…うん」
「ふふ、こんなに早く復活したら、十六夜が嫉妬して手がつけられなくなるぞ」
「…うん…でもそれでもいいの。雪ちゃんに戻って来てほしいの…」
腕に抱いた赤子をあやしてやっていた銀は、正座してずっと俯いている息吹のお尻を尻尾でくすぐった。
「きゃっ!?」
「泣き止んでくれないと俺が十六夜にどやされる。じゃあこれならどうだ」
「…し、し、銀さん…!尻尾が…!」
九尾の白狐である銀や晴明は、普段尻尾は1尾だが、実際は9尾あり、それを見せた途端息吹の涙が止まり、わさわさと動く尻尾を手当たり次第掴んで喜んだ。
「息吹は相変わらず助平だな。十六夜の助平を上回る助平だ」
「!そ、そんなことないもんっ。銀さん…ありがとう、慰めてくれてるんでしょ?」
銀が息吹の髪の寝癖を直してやりつつふかふかの尻尾を触りまくって離さない息吹は、庭に目を遣ると、いつも桶を持って手伝ってくれていた雪男を想ってまた涙ぐんだ。
文句を言いながらも枯れた葉を一緒に毟ったり箒で庭を掃いたり…
晴明の話ではいつ復活するのかわからないと言っていたが、これからも毎日毎日、通うつもりでいた。
「待てばいい。話しかけ続けてやればいい。そして十六夜をやきもきさせてやれ」
「ふふっ、うん…。でも主さま怒ると怖いから怒らせたくないな」
「怒られたら晴明に言え。式神と十二神将総出で十六夜退治に全力を賭すだろうよ」
――主さまはそんな2人の会話を障子越しに聴いていた。
雪男を想って泣く姿など見たくはない。
ため息をついた主さまは、明日から一緒に花に水遣りをしてやろうと決めて、気付かれないようにまた床に戻った。
――外の庭で誰かが水を撒いている音がした。
ぱしゃり。
ぱしゃり。
…そうやって毎朝毎夕雪男と一緒に庭の花に水をやって、蕾が大きくなって花開く姿を見ているのが好きだった。
ぱしゃり。
「…雪ちゃん…?」
うとうとまろどんでいたが、もしかして雪男が戻って来てくれたのかもしれない思った息吹はがばっと起き上がり、腕枕をしてくれていた主さまの腕を踏んづけて障子を開けて外に飛び出た。
「雪ちゃん!」
「おお息吹か、どうした?」
「あ…銀さん…」
寝癖がついてぼさぼさになっていた頭のまま、縁側から銀を見下ろした息吹の目尻に一気に涙が溢れ出してきて止まらなくなり、銀は桶を大地に置いて立ったまま泣いている息吹の隣に腰かけた。
「まあ座れ」
「…うん…」
「どうした。俺を雪男と勘違いしたのか?」
「…うん」
「ふふ、こんなに早く復活したら、十六夜が嫉妬して手がつけられなくなるぞ」
「…うん…でもそれでもいいの。雪ちゃんに戻って来てほしいの…」
腕に抱いた赤子をあやしてやっていた銀は、正座してずっと俯いている息吹のお尻を尻尾でくすぐった。
「きゃっ!?」
「泣き止んでくれないと俺が十六夜にどやされる。じゃあこれならどうだ」
「…し、し、銀さん…!尻尾が…!」
九尾の白狐である銀や晴明は、普段尻尾は1尾だが、実際は9尾あり、それを見せた途端息吹の涙が止まり、わさわさと動く尻尾を手当たり次第掴んで喜んだ。
「息吹は相変わらず助平だな。十六夜の助平を上回る助平だ」
「!そ、そんなことないもんっ。銀さん…ありがとう、慰めてくれてるんでしょ?」
銀が息吹の髪の寝癖を直してやりつつふかふかの尻尾を触りまくって離さない息吹は、庭に目を遣ると、いつも桶を持って手伝ってくれていた雪男を想ってまた涙ぐんだ。
文句を言いながらも枯れた葉を一緒に毟ったり箒で庭を掃いたり…
晴明の話ではいつ復活するのかわからないと言っていたが、これからも毎日毎日、通うつもりでいた。
「待てばいい。話しかけ続けてやればいい。そして十六夜をやきもきさせてやれ」
「ふふっ、うん…。でも主さま怒ると怖いから怒らせたくないな」
「怒られたら晴明に言え。式神と十二神将総出で十六夜退治に全力を賭すだろうよ」
――主さまはそんな2人の会話を障子越しに聴いていた。
雪男を想って泣く姿など見たくはない。
ため息をついた主さまは、明日から一緒に花に水遣りをしてやろうと決めて、気付かれないようにまた床に戻った。