偏食家のテーブル
「ねぇ、田口君だよね?」
「ん。あぁ。はい。」(その頃からこんな感じだった。)
「猪野センパイって知ってるでしょ?」
猪野実は二つ上の高校の先輩で、体育祭や文化祭でのリーダーっぷりは他を寄せ付けない、生まれついてのカリスマだった。
「猪野センパイがね、サークル運営してて、なんだっけ…ヒップポップ?なんかそういうのヤッテるんだって。イベントが明日あるんだけど、アナタもどう?」
まだ日本にヒップホップの文化が浸透していない頃の話だ。カナもまだヒップホップの「ヒ」の字も知らない。そして、この後、カナがミスキャンパスに選ばれて、花の女子アナになる事は周りも本人も知らない。
「別にいいよ。」
「そう!良かったぁ!まだワタシも大学だと友達いなくて、一人だと不安で。」
この時、ユタカは否定の「いいよ」のつもりだったのだが、カナには「明日は暇だし、別にいいよ」と、受け取られてしまったのである。
「じゃあ明日の、そうねぇ…八時に吉祥寺駅の北口改札で!じゃあね。」
「あっ!あの…」
ユタカは最後までしゃべらせてもらえなかった。
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