偏食家のテーブル
そして、昨日カナから受け取った合鍵でその部屋を閉じた。大学に入り、少し経った頃と同じように。

ユタカは、眠っていなかった。虎視眈眈とハルカが仕事場につくのをケータイを手に待っていた。自分の仕事を放り出して、ハルカの声を待っていた。とりあえず、ハルカと話をするまでは他の事はどうでもよかった。朝の八時を過ぎた。もう三十分もすれば、イベント企画部の田口は出勤するはず。そこを獲物を狩る豹のように、電光石火で捕まえる。これなら間違いない。しかし、ハルカは捕まらなかった。
「そ、そんなハズは…企画部の田口ですよ!いないって…」
「ハイ。半年前に退社しておりますが…えーと、どちら様でしょうか?」
ユタカは逆に質問されて、動揺した。そして、その受け付け嬢との会話を打ち切った。焦りと動揺、それから自分の妻の事をあまりに知らなかった事による羞恥。それからよく考えた。確かそんな事を言っていたような…「引き抜きが」とか「収入アップよ」とか。しかし、思い出せない。それ以上は、聞いているようで聞いていなかった。あぁ…ミスだ。なんとゆう事だ。後悔が怒りに変わる。自分に向けた怒りに変わる。
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