偏食家のテーブル

五月二十八日 1

朝の二時半、まだ日の光など感じる事のできない時間。それがカナの毎日の起床時間だ。週末の「山本加奈子」から朝の名物アナウンサー「ヤマカナ」に変わる月曜の早朝だ。いつものように、手早く簡単な化粧をして、メガネをかけ、帽子をかぶる。メガネと帽子は軽い変装だが、効果はあった。この時間ならほぼバレない。あのヤマカナが歩道を歩いていても。
「行ってきます」
小声で言った。まだあと四時間は眠れるハルカにカナは言った。起こしてしまわないように、そっと。

ハルカは午前六時に起きた。いつもより一時間早い。仕事場の『サドラーズホテル東京ベイ』までは、片道で40分から20分増えて60分かかるようになったから。そして今日がカナの家からの初めて出勤日だったから。ハルカは急ぐ行為が好きではなかった。新しい電車に乗る時、新しい道を歩く時はいつもそうだった。
ハルカはキッチリと化粧をする方だった。ホテル勤めなのだからか、自分が田舎の出だからかわからないが、大学を出てから手を抜いた事がない。そして、今ヤリ手のホテルウーマンに変身したハルカは、「ヨシ!」と気合いを入れて、ドアを開けた。
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