バージニティVirginity
『…離婚するの?』

玲は掠れた声でやっと聞いた。

『したくない。俺と玲が別れる時は、ど
ちらがが死ぬ時だ』

佳孝は玲の目を見て言った。

『許してくれ

佳孝は頭を下げた。

そして、立ち上がり、ベッドルームから出て行った。
バタン、とドアが閉まった。


『どういうこと…』

意味が分からなかった。

男のあまりの身勝手さに取り残された玲は裸のまま、ベッドの上で呆然としていた。

次々に落ちる涙が豊かな乳房を濡らす。


『俺は飽きっぽいんだよね』


結婚前に言った佳孝のセリフを、玲は思い出していた。


佳孝は玲に飽き、他の女を好きになった。
さっき佳孝は、許してくれ、と確かに言った。


夫を許すには、妻の自分も同じことをしなければならないと、涙ながらに玲は思った。




2年経った今現在、佳孝と『まゆみ』がどうなったのか玲は知らない。


2年前、佳孝に告白された日の次の朝、玲はいつものように七時に起きてスクランブルエッグとウインナーの朝食を用意した。

トースターにパンをセットすると、リビングのソファーで寝ていた佳孝を起こし、『佳孝、コーヒー淹れてくれる?』と頼んだ。


佳孝は眠い目を瞬かせながら、素直に従った。

玲が左手薬指のリングを外すことはなく、それは佳孝も同じだった。


玲は佳孝と今まで通り普通に生活することを選んだ。



いつか佳孝は目を覚まし、女とは別れるーーーそれを信じることにした。

二人の生活には、すれ違いーーー空白が生まれていた。

休みの半分ほどが合わなかった。

教習所は月曜日が定休日で、あともう1日土日以外にシフト制で休みが取れる。

玲のラウンジは完全シフト制で不定休だった。


休みが合わない時 ーーーまゆみと会っているのではないか ーーー玲は疑いを持ちながらも佳孝を責めることはしなかった。


責める資格を失っていた。


佳孝の告白のあと、ラウンジのパートを始めた玲は、まもなく豊と付き合い始め、今日に至るのだから。

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