バージニティVirginity
初めての男
加集がトロントに旅立った同じ月、玲は社会人として第一歩を踏み出した。

就職先の照明器具メーカーで、営業部に配属された玲は、先輩営業マンのアシスタントとして一緒に得意先を回る日々となった。


玲の仕事のパートナーは、清水という三十後半の小肥りの眼鏡を掛けた男だった。

「志沢です。よろしくお願いします」


清水の席まで出向き、玲が挨拶をすると、
「あ、よろしく」

と、清水はぶっきらぼうに応えた。



ひと月前に入社したばかりなのに、玲は、『未来のテクニカルライティング展』と銘打たれた展示会にコンパニオンとして派遣されることなった。

東京の大きな会場で催されるイベントの仕事は、総務課の女子社員の担当だった。

彼女たちは、会社の顔である受付嬢でもある。
手入れの行き届いた髪と優美な笑顔が売りのプライド高き女たちだ。
社内でも彼女たちは特別な存在だった。


人は足りていた。

営業課の玲が、コンパニオンとして展示会に参加する必要は全くなかった。

それにも関わらず、会社は志沢玲を展示会に行かせた。

営業課の恰幅のよい五十過ぎの部長が新人部下の玲を非常に気に入り、あからさまに贔屓していた。

「うちの志沢さん、すごくいいから頼むよ。お客さんにも覚えてもらえるし」

部下たちの前で部長は、仲の良い総務課の部長に玲を展示会に行かせるように頼み込んでいた。

玲は、総務課から派遣された三人の先輩たちに混じり、コンパニオンを務めることになった。


完璧な化粧を施した彼女たちは、玲に冷たかった。

三人は展示会場の控室で、会社から支給されたお仕着せの赤いワンピースがダサいと言って文句を言いあっていた。
そして、チラチラと玲の方を見て、クスクスと笑う。

「何、あの胸…すご過ぎない?」

茶髪のロングヘアの女が小声で同僚二人に言う。

「営業部長、あれが見たかったのよ」
一人が答えた。

玲が彼女たちの方へ視線を向けると、

「いやだ、聞こえたんじゃない?」

とヒソヒソ声で言い、また三人はクスクスと笑った。

ユニフォームの赤いワンピースは、細身に出来ていて、背中のファスナーを閉めるとまともに胸の形が出る。

玲だけが、胸周りに張り裂けんばかりの変な皺が出来た。

窮屈で嫌だな、と思ったが仕方ない。


誰も玲には、話しかけなかった。
玲はすっかり孤立してしまっていた。

彼女たちが来場客にブースの展示物を説明する中、新人の玲はどうしていいか分からず、愛想笑いをしながら、ただ、突っ立っていた。


「志沢さん。こんなことまでやらされてるの」

にこやかに声をかけて来た男がいた。

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