バージニティVirginity
ーーそんなことない……


咲が夕方、帰っていったあと、ティーカップを片付けながら玲は考える。


二十歳(ハタチ)まで、私は男に放っておかれていた。

経験を積んだのは、短大を卒業し社会人になってからだーーー




十代の玲は肥満気味の内向的な娘だった。

背も高いほうでもっさりとした玲は中学の時、クラスの口の悪い男子に「牛」とあだ名を付けられて、それがとても嫌だった。

高校は規則の厳しい女子校を選んだ。

とても奥手で、たまに通学途中、見ず知らずの男の子に話しかけられると、赤面して逃げ出した。

短大は家政科に進み、いつも女子ばかりでつるんでいた。

友人たちとイタリアンの食べ放題やら、話題のスイーツがどうとか野放図に食べていたら、どんどん体重が増えた。

二十歳になる少し前から、さすがに自分の体型が気になり出した。

友達は食べてもそんなに太らない。
体質が違う。

その事に気付いてから、おやつを止め、食事のカロリーに気を付けると、徐々に痩せ始めた。
たまにプールで泳いだりもした。

すると、むくんでいた顔が引き締まり、腫れぼったかった目がぱっちりしてきた。
体全体がスッキリしてきたが、胸のサイズだけは変わらなかった。


程よくスリムでありながら、胸だけが丸く突き出た体型になった玲は、男の視線を集めるようになった。

そして、この頃からある才能を持つようになる。

玲のことを欲しい、と思っている男が本能的に分かるようになった。


本社の内勤だった咲は全ては知らないけれど、営業アシスタントとして上司や先輩社員について外回りをする玲は、男と知り合う機会も多かった。

いいな、と思う男に玲は意味ありげな視線を送り、思わせぶりな態度をとる。

すると、たいていの男は玲に近づいてくる。

それがゲームのようで面白かった。


その一方で、

ーーー私は本気の恋をしたことがないのかもしれないーーー

朝、起きるとベッドの中で玲はよく思っていた。


ーー恋って、どこにあるんだろう?ーー


そう思いながら、夜の街を男と彷徨い歩いていた。


28歳で佳孝に出会うまでに寝た男は、両手では足りない。

仕事に差し障りない、後腐れのない男。

そして甘い言葉を囁いてくれる男であれば独身、妻子持ち、彼女持ち関係なかった。




佳孝とは今年で結婚五年になる。

玲は、28歳の時、三十路になる前に車の免許を取ろうと思いたち、自動車学校に通い始めた。

そこで出会ったのが、教官の佳孝だった。



『こんにちは』

そう言って教習車の助手席に乗り込んできた佳孝を、玲は一目で好きになってしまった。

すごく玲の好みだった。



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