全てを失った二人の物語

「しまったな…長居しすぎた。
まさか女がいるとは思わなかったからな、

しかもかわいこちゃんときた。

だがしかし、こんな酒場な前で終わるオレじゃないぜ。

さらば!!」

「ちょっ…ちょっと待って!!!」


反対方向へ、と走り去ろうとするシリウスを、寸での所で引き留める。


「なんだ?まだオレと一緒に居たいのか?」


にやにやしながら顔を近づけるシリウスに、まりはいかにも嫌そうな表情をして顔をそらした。



もうすぐ軍が助けてくれる。
こんな不躾なマフィア(?)を易々と逃がしたくない。


「(でも…)」


男には力じゃ勝てない。
男に勝てるものはなに?

まりは苦渋の決断をした。

まりはシリウスの唇に自分の唇を押しつけるようにして、キスをした。


思った通り、シリウスは食いついてきた。


ガサッ


「見つけたぞ!」


まりとシリウスを囲む軍隊。
後方で隊長が叫ぶ。


「助けて!!!!」

まりは無理やり口を引き離し、隊長の元へ向かう。



「奴を捕えろ!!!!」


隊長の声に続いて、軍隊が砂糖に群がる蟻のようにシリウスに覆いかぶさる。


一方で隊長は、まりをふわりと抱きしめる。

この隊長――トニーは、先ほどの爺隊長ではなく、酒場によく来る仲の良い隊長なのだ。

「まり、大丈夫か?けがは?」

「…ありがとう、トニー、大丈夫。

あたしは、大丈夫…」


遠くからシリウスの声が聞こえた。


「お前、キス上手だな!!」


その場が、一気に静まり返る。

まりは青ざめその場に凍りつき、トニーはシリウスに怒鳴った。


「でたらめを言うんじゃない!!
まりがそんなことするわけがない!!!」

「本当さ!オレじゃない、そいつからやってきたんだぜ?なぁ、まり?」

「……ッ!!」



止めるためだったと言っても、おそらくは軍のお偉方は信じてはくれないだろう。

トニーは苦渋の表情で静かに言った。


「非常に…残念だが」


トニーは二人の兵士を手招きした。


「…まりが奴の仲間じゃないのはわかっている。
だが……まりの潔白を証明するためには、こうするのが一番だ」


兵士に支えられて、あたしは何とか立ち上がった。
そのまま促されるように、シリウスのもとへ歩いていく。


「安心しろ、私が必ずまりを守る」


……



トニーがそう言った事は覚えている。


気付いた時に、

あたしは、牢屋にいた。




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