全てを失った二人の物語
牢獄と過去

〜♀〜


……あたしが、家を出るきっかけになったのは、彼のお陰だった。



闇の中に一人ぼっちでいたあたしに光をくれた、彼。

名前も、顔も覚えていないけど。

黒髪の美しい少年だった。









「ん……?」

懐かしい夢を見た。そんなことを思って、瞳を開けた時に見えた景色は鉄格子。

瞳を開けたにも関わらず、真っ暗なこの場所に一筋光が差し込んでいる唯一の場所だった。

「??……ん!」

何故自分が、こんな場所に居るのか分からなくなったのは一瞬で、直ぐに頭にその原因は浮かび上がった。


今日の夜、いや、朝日が射してるんだから、昨日の夜だ。

昨日の夜、トニーに牢獄へ連れられちゃったんだ。


「おい、まりっ」


隣の牢屋に、見たことのある格好の人物がいた。

赤いバンダナ、隈…ひげ……


「…あ!!思い出した!!シリウス…ええと、シリウス・ブリーフ!!!」

「違う!!!
何でブリーフだ!オレはパンツか!

フリーダム!

シリウス・フリーダムだ!!!!」


シリウス・フリーダムは鉄格子を掴んでガタガタ言わせながら言った。


「あ!!なんか色々…思い出した!!
あたし、シリウス・フリーダムのせいで今ここにいるんだった!!」

「長いだろ、その呼び方。
シリウスでいい、シリウスで。

確かに、お前はオレのせいで今ここにいる」


淡々と言ってのけたシリウスに、あたしは怒るつもりで近寄った。


「本当にアナタ…じゃなくて、シリウス、あの時何がしたかったの!!?
今でも憎たらしいけど、そもそもシリウスが早く逃げなかったからこうなったんだよ!!」


「誘ってきたのはお前だろ?
瞳に涙溜めて、あんな色香漂わせて…お前の自業自得だ」


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