あなたを抱けなかった理由
「すみません、色々手続きがあるので、ご家族の方はいらっしゃいませんか?」


父と同じ年くらいだろうか、私の顔を覗き込むように腰を屈めて、地肌が薄らと見え始めている頭をポリポリと書きながら訊ねる。


その声も、この雨に流されてしまえばいいのに





「あのね…」

私が無反応なのにかなり困っているのだろう、その人は口元を少し歪めながら、斜めに私へと視線を向け始める。


この人は、大切な人を失ったことがないのだろうか




たった今、さっきまで笑って話をしていた人が、今はまるで……「ただの物体」になってしまったというのに。




それを、どうして受け入れられるのだろう
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