あなたを抱けなかった理由
その人は、待っていただろう私の言葉を聞くなり、あからさまに『困った』と言った顔をした。



「そう。じゃあ、あなたのご両親は?」


「います。でもずっと連絡を取ってません。取るつもりもありません」




窓を打ち付ける雨の音がうるさい。



その人は、再びポリポリと頭をかきながらその場を通りかかった若い警官に小さく「捜索願出てないか確認して」と耳打ちした。



捜索願が出ているわけがない。
だって、捨てたのはあっちの方だから。


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