あいしてる
「あなたが、…父親だなんてね」
テーブルの上の灰皿の中に、煙草の吸い殻がひとつもないことに気づき、思い知らされる。
私がいなくても大丈夫。
彼を幸せにできる人がいた。
どうしようもない彼を、幸せにしてあげられる人が、私以外にもいた。
これは、勝ち負けなんかじゃない。
そう自分に言い聞かせて涙をこらえる。
「彼女のこと、愛してるの?」
私の問いかけに、不安げな表情で彼に視線を移した彼女。
そんな彼女の手を握り、真っ直ぐに、なんの迷いもない目をした彼が頷き、
「愛してる―…」
と口にした。
もう、十分。
「彼女のこと、幸せにしてあげて。…約束よ」
これが、彼とする
最後の約束。
【END】